既刊書籍の電子化契約書を読み解く(3)

前々回、前回と続けたが、最後のポイントを指摘しよう。それは契約期間だ。今回、契約期間は5年となっている。すべてとは言わないが私が見た複数の出版社の電子化契約書は5年間となっている。私が実際に接した出版社の契約書は、通常の紙の書籍の場合、多くの場合3年となっている。もちろん出版社によって多少の違いはある。ただ、私が思うに今回の電子化契約書がデジタル化に関するものであれば、5年という期間をどう考えたらようのであろうか。

今年1年だけをみていただいてもわかるように、電子書籍の世界は、加速度的に進化している。先日アマゾンが発表したように、ベストセラー上位10位までの書籍に限るが、販売から15年の紙の書籍の販売数を販売を開始して3年ほどの電子書籍が上回っている。

次々と発表される新電子書籍端末。アンドロイドに代表される新OSや各端末会社が作り出す電子書籍販売プラットフォーム。この数か月をみても目まぐるしく環境が変化している。このような世界において、5年間にも効力を発揮する契約をどのように考えるか。

先日、アメリカの電子書籍標準化団体の一つ、IDPFがフランクフルト国際ブックフェアで行なった次期EPUB3(旧:EPUB 2.1)に関する講演によると、次期EPUB3では縦書きやルビが実装されるとのこと。そうなれば、電子書籍の環境や作り方も変わってくることであろう。

1年後には、電子書籍周辺の環境も激変していることであろう。そういったなかで、いま、既刊紙書籍の電子化とはいえ“独占”と“15%”とを5年間拘束されてもいいという著者がどれほどいるのであろうか。個人的には独占でも15%でもいいとは思う。しかし、期間だけは、せめて1年間、もしくは半年に区切って、その度ごとに更新することが、著者にとっては現実的であり得策ではなかろうか。いずれにしても双方異議を唱えなければ自動更新という方法をとればよいので、手間がかかるものではない。

もちろん以上は著者サイドに立っての話である。出版社サイドに立てば、いろいろなリスクを勘案したうえで、会社にとって少しでも有利な条件で、できるだけ長い間契約できるにこしたことはない。その両サイドが話し合って、それぞれが納得する条件で契約を結べばよいのではなかろうか。ただし、今回のように、うっかりするとTwitterなどですぐに情報が漏れてしまうので、そのことはお忘れなく。

連続コラム了


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